「医薬分業になったら日本の薬は良くなる」というのが、私を医薬分業運動に駆りたてた大きな要因でした。医薬分業が進んで、病人の約半分の人が処方せんを手にするようになった現在でも、塩化リゾチームやユビデカレノン、あるいはクレスチンやグルタチオンというような薬が大手を振って通用していた10数年前と同じ様にいい加減な薬がかなり広く使われてい
ます。
その理由として考えられる一番大きな理由は、医師主導型の医薬分業が蔓延しているからです。形の上では、向かいや隣に新しい薬局が出現しても、看護婦さんが誘導するその薬局やこの前まで病院にいた薬剤師が勤めるようになったお向かい薬局はいかにも、その医院の息がかかっているという雰囲気。中には、あんな見え見えの”もたれ合い分業”なんかいやだと行って、自分のかかりつけ薬局で調剤してもらう勇敢な人も無いことはありませんが、うさんくさいなぁと思っても命を預けている医師に悪いからと、お向かい・門前薬局で調剤してもらう人が大半です。
しかし、患者さんがそうした意識でいる間は日本の医薬分業は、”もたれ合い分業”の域を脱出できず、日本の薬は相変わらず良くなりません。
それと、日本の薬局の処方せん調剤における技術料が外国に較べて極端に高いことも、日本の医薬分業の正常化の邪魔をしています。ドイツやフランスは薬局で調剤してもらったときに薬剤師への技術料はなく、完全に薬のマージンですから比較できませんが、イギリスの場合処方せん一枚あたり薬局の受け取る技術料は月間1500枚までの分については、約300円であり、それ以上の部分についての技術料は半分になっています。アメリカは薬をカバーしているメディケイドの場合、州ごとに決められていますが平均5ドルくらいです。日本の場合は、社会医療調査報告(平成13年6月)によると、薬局調剤の技術料比率は32.4%です。時期は少しずれますが、平成14年の処方せん一枚当たりの金額は5,846円ですので、一枚当たりの技術料は薬1,900円にもなります。おおざっぱにいって、イギリスの5倍、アメリカの3倍にもなっています。それだけ日本の薬剤師が優秀であるといってしまえば格好いいですけれど、どうもそれだけではありません。
医師は分業するなら隣に薬局が無いと駄目だといいます。さきほど”もたれ合い分業”という言葉を使いましたが、処方せんを書く人とそれを手にしないと仕事にならない薬局という関係が存在することを見逃してはいけません。はっきり言ってしまえば、過剰な技術料は医院へのリベートの原資になりえます。(リベートの出し方には100種類もありますよと教えてくれた卸の幹部もあります)
そこで、なぜ薬局の技術料がそんなに高くなるのかを説明しましよう。薬局の技術料は大きく分けて3種類のものを合算します。一つは『調剤基本料』です。2 番目の技術料は『調剤料』です。それに「薬歴服用歴管理・指導料」や「薬剤情報提供料」などの『指導管理料』です。
『調剤基本料』はいわば保険薬局を運営していく上での基本的な報酬です。これを処方箋枚数の多寡や、主として受け取る医院の枚数が全体に占める比率によって 4段階に分けています。
問題は『調剤料』が、に日数剤数倍数制と呼ばれる薬の服用時点の違いや、投薬日数によって技術料が付加されることです。剤数というのは、服用時点が違ったり服用回数が違っていたりするとカウントされます。
説明を簡略にするために14日分の薬が投薬されるとします。一日3回食後のものですと、それに対する調剤料は63点(630円)です。
調剤薬局に儲けさせて上げようと思えば、それに一日2回服用の薬を付け足したり、一日3回食前服用の薬を付加すればいいのです。更に、服用時点の違う睡眠薬か便秘薬を寝る前に服用として処方すれば4剤になるのですが、過去にそうした恣意的な剤数増やしが横行したため現在では3剤までしかカウント出来ないことになっていますので、3剤×63点で1830円が加算されることになります。
もし、医院とお隣の薬局が密接な関係にあれば、なかなか薬の剤数が減らないことがこれでお分かりでしょう。そうした不合理で非科学的な点数構成を改めない限り、患者さんの飲む薬の数は減りません。ですから、私達はこの日数剤数倍数制という危険な点数構成を廃止すべきだと考えています。
出来高払いが建前の日本の医療の欠点は、『指導管理料』にも現れています。十分な指導もしないで、点数の高い「特別指導料」を取っている保険薬局があって保険監査の対象になります。
「薬歴服用歴管理・指導料」や「薬剤情報提供料」(薬歴手帳を含む)は、薬剤師法の25条の2に照らし合わせれば、当然実施すべきことですので、これも『調剤基本料』に含めてしまえばいいのです。
『調剤料』を廃止して、『調剤基本料』と『指導管理料』を一本化する。そうすれば当然のように調剤料の“まるめ”になります。一枚の処方せんを調剤した時には、いかに複雑な調剤であっても一定金額の技術料になります。
それでは、一般の保険薬局と厚生労働省が好ましくないといっている、門前薬局やマンツーマン薬局の差別化はどうするかという問題が残りますが、その解決にはイギリスのNHSにいいお手本があります。
イギリスでは1500枚を一つの区切りにしていますが、日本の場合は現在のひずみを早急に是正する必要があります。月間300枚までの部分については、現在の平均的な技術料である1800ー2000円くらいにしてもいいですが、それをオーバーした部分については漸減させるということにすればとかく目障りな不適正な分業が自然に消滅していくだろうと期待でき
ます。そうなってはじめて理想的な「かかりつけ薬局」が定着します。
また、受け入れ枚数によって技術料は異なりますので、患者さんの負担に混乱が生じないようにするため、患者さんの自己負担は薬剤料の15%とか30%とかいうように、保険薬価にある指数をかけることにします。患者さんが自分の薬は高いのか安いのかがわかり易いですし、高い場合にはどうしたら安く出来るかを考えてもらういい機会にもなります。(先発品・
後発品の選択を含めて)
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